第10章 赤いチューリップ
「………て………てん………!」
遠くの方から声が聞こえる。
ボクは……何をしていたんだっけ?
あ………そうか……気絶したんだっけ………。
まだ重たい瞼をゆっくりと開けると、眩しい光と共に2つの顔が見えた。
「龍………楽………」
「ああ、天、よかった………」
「ボクは…どれくらい意識を失ってた……?」
「1時間くらいだな。もう、8時回ったし今日は龍の家に泊まるかー」
「もう、そんな時間か……そうだね、それがいい」
ボクは体を起こし、背伸びをした。
少し寝たせいか気持ち悪さは無く、さっきまで花を吐いて苦しんでいたとは思えないほどスッキリしていた。
もしかして、彼女のことを想えば思うほど苦しみが増すのだろうか。
「………気持ちに比例………?」
「天、何か言ったか?」
「いや、何でもない」
「ならいいんだけどよ。お前もたまには素直になれよ。1時間前みたいにさ」
「は……?それ、どういうこと」
楽の言葉が引っかかる。
気絶する前にボクは何か言ったのか?
「ねぇ龍、ボク何か言った?」
「あ、えと……」
「『ただ、あの人を想うだけでよかったのに』とか『好きがこんなに苦しいなんて』とか言ってたぞ。涙声で可愛かったなぁ、天」
「ちょっと、龍。楽の言ってること本当?」
「………うん」
顔が熱くなってくのが分かる。
できることなら1時間前の自分を説教したい。
「おい、天。顔、赤いぞ」
「あ、ほんとだ……天は可愛いなぁ」
「……うるさい」
ボクは顔を隠すようにしながら、また布団にくるまった。
「そんなに好きなら言っちまえばいいだろ。好きだって」
「………ボクだってそうしたい」
「なら、しろよ」
「………できない」
「どうして」
「彼女には、好きな人がいるんだよ」
「「なっ……!」」
今、楽と龍の顔を見たらきっと驚いた顔をしているんだろうな。
聞こえてくる声からそう確信した。
「で、でも、まだそうと決まったわけじゃないだろ?」
「お前、ちゃんと確認したのか?」
「したよ。ラビチャで」
「なんて」
「好きな人いるの?って聞いたら、はいって返ってきた」
「………」
「彼女の好きな人は、優しくて笑顔が素敵で仕事に一生懸命な頼れる人だって」
ボクがそう言うと、2人は黙りこくってしまった。