第2章 水精霊の宿る石
夜が明け、ファトムス王国に朝日が昇る。
ファトムス王国は、今日も平穏であった。
中心街も、他の町も村も…王宮も。
『怪盗ジェイン』に侵入され、国宝を盗まれても、王宮は何も騒がない。
ファトムスの国王は、魔術師団の団長から昨夜の報告を聞き、ほくそ笑んだ。
これで怪盗ジェインは捕らえたも同然だ、と……
同刻───
「ぅ……う、ん……」
頭の鈍痛に表情を歪めながら、重たい瞼を持ち上げ、シドは意識を取り戻した。
暫しぼーっと視界に映るままを眺め、ハッとして起き上がる。
「目が覚めたか」
「!」
シドが周囲を確認する前に、その傍に座していたヒトがシドに声をかけた。
シドは、警戒しつつ目を向けると、見覚えのあるその顔に眉根を寄せた。
「アンタ……」
シドは、思い出す。
一昨日、ファトムス王国に入国して直ぐに入った酒屋……暴漢に絡まれていた天人族の少女を、セラと共に助けた時の事を。
その少女を迎えに来た、長髪の青年を。
「確か……コア、つったっけ」
「ああ、あの時はビーナが世話になった」
シドは今一度周囲を見回し、自身の現状把握を試みた。
泊まっていた宿ではない、見知らぬ部屋の中、ベッドに寝ていた自分、椅子に腰掛けているコア、部屋の隅に見える自身の荷物……把握するには材料が足りない。
「ここは何処だ。ファトムス王国なのか?」
シドが問うと、コアはシドが眠る間読んでいた本をパタンと閉じた。
シドを見ながら、淡々と答える。
「ファトムス王国内だ。国境の近くだがな」
「アンタの家か?」
「俺“達”の隠れ家の一つだ」
「俺達……?」
それは、コアとビーナを指すのか、はたまた他にもヒトが居るのか……
答えを聞いて新たな疑問が生じたが、シドはそれらを聞く前に、自身が一番訊きたい事を問った。
「セラは何処に居る」
「セラ……狐人の娘の事か?それなら、隣の部屋に居るぞ」
それを聞いて、シドは直ぐさまベッドから降りる。
殴られた頭が痛む事より、自身が連れて来られた理由より、シドにとってはセラの方が重大なのだ。