第20章 ワンコの憂鬱
「あの人はそういうんじゃないから!」
俺の言葉を全否定する桜子さん。
それから彼女は全てを打ち明けてくれた。
あの男の人は桜子さんの元彼で…偶然街で出会った事。
今はお互い恋人もいて、恋愛感情など持っていない事。
そして俺とのセックスを拒んだのは…
「…ダ…ダイエット…?」
「……、」
そう反復する俺に彼女はこくりと恥ずかしそうに頷く。
俺は一気に脱力した……一体彼女のどこに痩せなくてはいけないところがあるというのだろう。
「さ、皐月くんには分からないの!」
「だったら尚更ダイエットなんかする必要無いんじゃないですか…?」
「ぅ…」
正直俺は本当に気付かなかった…彼女の体重が増えていた事なんて。
そんな些細な事(彼女にとってはそうではないのかもしれないが)なんて気にならない程桜子さんは魅力的なのだから…
「ハァ…」
全て俺の勘違いだった事が判り、自然と安堵の溜め息が漏れる。
けれど俺が彼女にしてしまった事はやはり許されない。
「桜子さん…本当にすみませんでした」
「……、もういいよ…ちゃんと解ってくれたんなら」
「でも…それじゃ俺の気が済みません」
本当なら別れを切り出されてもおかしくない事を俺はしてしまった…
優しい桜子さんはそんな俺を許すと言ってくれるけれど。
「それに…ここも痕残っちゃって……」
さっきベルトで縛ってしまった彼女の両腕を取る。
手首にはまだうっすら赤い痕が残っていた。
「もう…こんな事しないって約束してくれる?」
「も、勿論です!」
「私も前に皐月くんの浮気を疑っちゃった事があるし…おあいこって事で」
「桜子さん…」
「今度からは…お互い気になる事があったらちゃんと話そう?」
「っ…、はい!」
「ふふっ、じゃあこれで仲直りだね」
そう言って彼女は笑ってくれた。
もしかしたらもう二度と見られないかもしれないと思っていたその笑顔…
それをまた俺に向けてくれた事が死ぬ程嬉しくて…
「きゃっ…」
桜子さんの体をぎゅっと抱き締める。
俺はこうして彼女に触れられる事を当たり前のように思っていたのかもしれない。
でも本当は…彼女が俺と一緒にいてくれる事に感謝をしなくちゃいけないんだ…
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