第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
ポタリ、ポタリと血がベットに染みわたっていく。
ローは咄嗟にユーリの手を掴み止めたので致命傷は免れたが、それでもナイフは胸囲に深く突き刺さっていた。
「……っ」
ローはユーリに視線を送ると、彼女は笑っていた。
咄嗟に、ギルベルトの言葉を思い出した。
「……行かないと」
ユーリはローを強い力で引きはがし立ち上がった。
ローは咄嗟に手を伸ばすが、グラリと身体が傾き床に倒れた。
(……これは…毒か?)
ローは全身が痺れる感覚・痛み、そして呼吸が苦しくなる感じに舌打ちすると、床を這いつくばってでもユーリを止めようとした。
しかし、急速に意識がぼやけていく。
恐らく即効性のものなのだろう。
(ユーリ!行くな!)
ローはユーリの足を掴んだ。
彼女を行かせるわけにはいかなかった。
ユーリではない何かが彼女を操っている。
それはすぐに分かった。
ユーリの身体を使って何をしようとしているのか。
もしギルベルトの言う通り、フレバンスの亡霊なら政府を恨んでいるだろう。
ローは全身から血の気が引いた。
自分が死ぬことよりも、彼女を失う方が怖かった。
「……い…く……なっ」
そう言葉を発した瞬間、血の味がしたような気がした。
彼はせりあがってくる血の塊を吐き出すと、体内を毒で蝕まれてボロボロであるにもかかわらず立ち上がった。
そしてユーリを抱きしめて止めた。
「…頼むから…こいつを…連れて行くな」
ローは毒に侵されているとは思えないような力で、ユーリを抱きしめていた。
政府と衝突するならば、彼女は無事では済まされないだろう。
もう二度と、彼女を失いたくなかった。
「…さようなら」
しかし、ユーリはそんなローを引きはがし背を向けると、その場を去っていった。
浅くなる呼吸、全身の痛み、痺れ、失われていく意識。
ローは立っているのが限界にきたのか、その場に膝をついた。
「……ユーリ!!」
ユーリの後ろ姿に伸ばされた手。
ローの悲痛な声は部屋に響き渡った。
しかし、その声が彼女に届くことはなかった。