第16章 合理的はなまる
時計を見てふっと息を吐く。
次は、ももちゃんと轟くん…か。
「出久くん、私…もう行くね。」
「えっ、もう?」
「うん、えっと、じゅ、準備運動とか…。」
「そっか。頑張ってね!」
ももちゃんと轟くん。2人とも成績優秀の優等生だから…。
見たらきっと、もっと緊張しちゃう。自分もああしなきゃって、きっと緊張しちゃうから。
見ないといけないのに、友達なんだから。参考にしなきゃ、強くなれないはずなのに。
クルリと扉に体を向けたけど、やっぱり緊張していて、手が冷たくなっててちょっぴり震えてた。
「あの…出久くん…。」
「ん?どうしたのひよこちゃん?」
「ちょっぴり…お、お願いが……。」
もう一度出久くんのところにタタタッと走り、自分の両手をぎゅうっと握りしめながらひとつ大きなお願いをした。
「い…1回だけ…て、手を……握ってくれませんか?」
なんて攻めたことをお願いしてしまったんだろうと、言った後後悔した。
両手を握る力がぎゅうっと強くなって、顔は真っ赤で、でも震えは止まらなくて。カッコ悪かったと思う。
「手?そっかぁ、緊張してんだね…。」
「ごっごめんなさい…。」
「それで緊張無くなるなら!」
そう言って彼はスっと右手を出してくれた。
私もおずおずと左手を出すと、ぎゅうっと握ってくれた。
暖かい。
ちょっぴり歪な形で、なんだか胸が苦しくなったけど、この手もこの温もりも、私が大好きなものだ。ずっとぎゅってしていて欲しかった。
「頑張れ、ひよこちゃん!一緒に林間合宿いこう!」
「うん……ありがとう。パワー沢山貰ったから、きっと大丈夫!」
精いっぱいの笑顔でそう言うと私はクルリと扉に体を向けた。
私も、今私に出来ることを。