第7章 兄の考えと二人の気持ち。
裕Side
俺は黙っているしかなかった。
返す言葉を持ち合わせていなかったからだ。
それを見て兄さんは
「そんなものなら、さっさと別れた方がいいよ。」
と下を向いていった。
今回ばかりは兄さんの考えていることがわからない。
そのあと無言の時間を過ごすと注文した日替わりランチが2つテーブルに並んだ。
久しぶりの兄弟二人でのご飯だったが話が弾むわけでもなく、ただただ無言で食べた。
兄貴が何を言いたいのかもわからないし、何がしたいのかもわからない。
それどころか俺らに頭ごなしに別れろといっているようにしか思えなかった。
そんなことを普段は言うような人じゃないからこそ、今までで見たこともなかった兄の一面にショックさえ受けた。
その空気に耐えられなかった俺はさっさとご飯を食べて、千円札を一枚テーブルに置く。
「今度、何かいいことがあったときご馳走してくれよ。」
そう言って俺は店を出た。
会社に戻るとそこにはロボットのように淡々と仕事をする由架がいた。
「日向、昼休憩くらいしっかりとれ」
「お昼食べたからもう大丈夫ですよ。やれます!」
俺が言ってもこの返事。
兄さんがうちに来た次の日くらいからこんな感じだ。
おかげで社内では評判がみるみるうちに上がっていってる。
このまま続けていけば他の部署の部長も夢じゃない。
けれど、元々そこまで出世願望もないやつが何故そこまで頑張るのかわからなかった。
確かに仕事を頑張ってくれることは上司としてはありがたいことだ。
新しく部署に入ってきたやつにも示しがつく。
けれど、由架とはもうひとつの関係がある。
そこの視点から見ればあまり無理はしてほしくない。
家で「無理してるんじゃないか」と聞いても「無理なんてしてないよ。」と返ってくる。
明らかに無理をしているし、それならやめてほしいと思っている。
けれど、無理にそれを言ってやめさせたとして嫌われるならそれは避けたい。