愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第2章 暗送秋波
「鵙(もず)が見ています・・。それに、お仕事なのでしょ?」
私の手を制する小さな唇。
「すまないね‥そう遅くはなるまい。‥‥いい子にして待っているのだよ?」
異国の美しい宝石のような瞳で見上げる智の唇に、ひとつ‥口づけを落とす。
‥‥いつになったら君は‥
その小さな胸に閉じ込めている秘め事を私に打ち明けてくれるのか。
草を踏む音に驚いたように飛び立つ鵙は、何も語らず私の元から去っていこうとする君の姿にも似ているようだった。
その夜、晩餐を共にしたのは古くからの学友たち。
共に学び、共に笑いあい‥輝かしい季節を過ごした友。
その中でも最も爵位の高い松本家の跡継ぎである潤は、腹心の友であり‥決して脅かすことなどできないほどの家柄と財力のある男だった。
「久しぶりじゃないか‥。このところ夜会にも顔を出さないし‥想い人でもできたのかと噂をしていたところだったんだよ」
最高級の仕立てが施してあるモーニングコートを華麗に着こなした潤は、眩しく輝きを放つシャンデリアの煌めきですら自分を引き立てる装飾品にしてしまうほどの風格を纏い、私を招きいれた。
‥‥この男には敵わないな‥
「だといいんだが‥世の中そう思う通りにはいかないんだよ‥。」
そう答えながら思い浮かべるのは、静かに微笑む智の面影。
決して想い人であるとは悟られてはいけない相手。
「そんなことはあるまい。‥私たちならば想い人を手に入れることなど造作もないこと。」
確かに‥女であれば‥‥
でもこの男には、そんなことは関係ないのかもしれない。
女であろうが‥男であろうが、望むものの全てを手中に収めてしまうことのできる男なのだ。
そんな私の考えなど知るはずもない潤と握手を交わすと、贅の限りを尽くした饗宴場へと向かった。