第73章 ♑瞳を閉じても②(赤葦京治)完結
『私は…』
あんまり思い出したくはないけど
鮮明に残ってる
辛く苦しかった日々を
ユックリ話し始める
それは京治が
あの子と二人で消えて行った後。
止まらない涙を強く拭き取り過ぎて
頬がヒリヒリする
帰り着いた部屋には
もう光太郎は居なくて
ガランとしてる
手の中で返せなかった
鍵が無駄に暖かくなってるのが
余計に辛い
明日も仕事だし
コンテストだって近い
私が挑戦しようとしてるのは
和装用の髪型で
普通のセットより難しいし
手も掛かるから
シッカリ下準備と練習しないと
自主練もサボってるから
指先もなまってる気がする
仕事部屋の隅に置きっぱなしの
頭だけのマネキンの
髪に触れる
セットの練習をしやすい様に
クセをつけた髪の毛が
京治を少し思い出させて
胸が痛くなる
今頃、京治はあの子と一緒…
何を話してるんだろう
私には何も言ってくれなかった
あの唇は
あの子に
何を語ってるんだろう
何度も指に巻き付けては
解く髪の毛