第13章 (黒日)常の夢 (主人と召使い)
「お…お断りです!」
「許しません」
「嫌です、私はここを出て行きます!」
「…おまえ、」
「菊様、私は貴方に言いたい事があるんです。貴方はどうして変わってしまったのですか?最初はあんなに優しく接してくださったのに、最近では私を嘲るか暴力を奮うかしか無い、私はもう耐えられないんです、辞めさせてください!」
一気にまくしたてた。伸びてきた彼の腕を払い、身体中で拒否を示して。
そしてまくしたててから怖くなった。
恐る恐る私は彼の顔色を伺う。きっと怒っているだろう、もしかしたらまた叩かれるかもしれない。
いや、叩かれるくらいでは済まないかも。
しかし予想とは裏腹に彼は笑顔を浮かべていた。
とても冷たい笑顔。まるで人を人とも思わないような瞳。
ああ、言わなければ良かった。取り返しのつかない事をした。私がただ我慢していれば良かったのに。
だけど、それが我慢ならなくて私は今日、だけどやっぱり。
震え上がる。
血の気が下がった私を見た彼は、薄い唇を開いて、言った。
「…不届き者」
「っ……」
「貴女、私が貴女をけなしていながら何故さっさと手放さないのか、考えた事は無いのですか?」
言われてはっとした。
そういえば周りの使用人は2、3度仕事に失敗すればすぐに辞めさせられている。
辞めさせないでと泣いて懇願する人も中にいるが、その人達は、菊に部屋に連れられてから出て来なかった。
「貴女を気に入っているのですよ。今宵は、また新たな一線を越える日です。…それと」
頬を撫で、妖しく笑む彼から、私は目を離せなかった。
「貴女がそんなに逃げたいのなら、逃げられないように、閉じ込めておかなくてはいけませんねぇ」
2014/