第98章 恋した記憶、愛した事実《19》
「……ふぅ~……廊下の雑巾掛け、完了っと。それにしても安土城の廊下って、やっぱり長いな~……」
お城の廊下を後ろ向きに進みながら、雑巾掛けをしていたため、拭き終わったと同時に、ぺたんと廊下に座って、息を吐いた。
「……次は何しよ……。花瓶の水も替えたし、今日は金米糖のお使いはないって、秀吉さんが言ってたし……」
言いながら、廊下に手をついてゆっくり身体を起こし、グーっと伸びをする。
後ろ向きでの雑巾掛けは、無理な姿勢で進むから、なかなかしんどい。
丸まっていた背中が、気持ち伸びた感覚を感じて、廊下の端に置いていた桶のところまで歩いて、汚れた雑巾を桶に入れて、簡単に水洗いする。
ちゃぷ、ちゃぷ……ちゃぷ、ちゃぷ………
「もう一週間……家康と話してないな……」
水洗いしていた手を止め、はぁ……とため息を吐く。
家康の包帯が外れた日、家康は自分の御殿に戻った。
毎日、お城には登城しているみたいだけど、仕事で来ているから広間や天主にいることが殆ど。
まれに見かけることはあるけど、向かいの廊下の端だったりとか離れたところのため、家康は私には気づいてない様子。
そして、軍議が終わったらすぐ御殿に帰るから、話どころか、挨拶も出来ていない現状……。
家康の時間があるときに話をする。という約束は、まだ果たされてないまま、日にちだけが過ぎていっている……。
「……忙しそうだし…家康の時間があるときにって言われたから、話せないのも仕方ないか…」
家康の空いた時間が早くこないかな。と思いながら、桶を片付けようと、中に入った水をこぼさないように、桶を持って立ち上がろうとしたとき