第19章 白筋
部屋を温めてくれていたヒーターを切る。途端急激に室温が下がっていく気がして、は少し息をついた。
この部屋が冷えきるまでに出掛けてしまおうと、2階にいるであろうバージルにせわしなく言う。
「バージル早くー。先外出てるよ」
「ヒーターは」
「けした」
コートを着てマフラーを巻き出かける準備万端のは、外の寒さを予感しながらドアに向かった。
開けた瞬間思わず首をすくめる程の冷気。背後でバージルが階段を降りてくる足音を聞きながら外へ出る。
手から滑ったドアはがちゃんと閉まった。
夏が過ぎ、秋が来て、いつからか吐く息は白くなり着る服はどんどん厚くなった。
これから本格的に冷え込み、首をすくめるような冷気は身を切るような寒さになるのだろう。
熱をことごとく奪う季節。冬はどことなくバージルを連想させる。
そんな事を考えながら灰色の空を見つめていると、背後でドアの開く音がした。
目をやると、ロングコートを着たバージルが外に出て来て家の鍵を閉めている。
コートを着ていてもわかるその長身とスタイルの良さ。細く長い指が鍵をかけ、確かめるように一度ドアを引く。
着ているのは真っ黒なロングコートで、ただでさえ白い肌が更に白く見える。長身であるバージルにまるであつらえたように似合っていて、はそのコートを気に入っていた。
「どっちの本屋行く?大きい方と小さい方」
は少し離れた場所からいつもと同じ質問を問いかける。
ゆっくりと振り向いてこちらへ歩いて来るバージル。形の良い薄い唇が開いて、漏れた息が白く横に流れた。
風にコートの裾が煽られ、今日は下ろしている銀髪が揺れ、合間から水のような瞳。
。
「両方だ」
いつもと同じ答えが返ってきて、は嬉しそうに微笑んだ。
2008/12/20