第15章 白銀
「ったく…なんでこんな時になくなるかなあ」
明日までに仕上げなければならない書類があるのに、よりによって無地用紙がなくなってしまったのだ。
外に出るのが嫌で、机の周りを始め倉庫まであちこち探し回ったが見つからず、バージルに聞いても見つからずじまい。
窓の外をちらりと見遣る。
室内との温度差で曇ったガラスは曇天の色を映して灰色をしていた。
寒いんだろうなあ、と息をつく。寒いのは苦手だ。
バスや車で行くような距離でもないし、歩くしかない。
覚悟を決めて、せめてもの寒さ対策に厚手のコートを着て手袋をし、マフラーをぐるぐる巻く。
鞄の中の財布を確かめ、2階にいるバージルに声をかけようとすると。
真っ黒なロングコートを羽織り真っ黒なマフラーを首に巻いたバージルが部屋から出てきた。
ちらりとに目を合わせてくる。
「?あれ…、もしかして一緒に来てくれるの?」
きょとんと瞬いて尋ねた。
「あぁ」
「どうしたの急に。いつもは本に喰いついて生返事なくせに」
「ただの気まぐれだ。行くぞ」
バージルはなるべく視線を合わせないようにしながら、コートのボタンをきっちり閉めた。
今日は一段と寒い。
書類を任せたのは自分だし、何よりもこんな中一人で出掛けるとなると心細かろうと思ったのだ。
寒さは孤独感を増長させる。人は冷たさよりも暖かさを好む。
心まで冷やすような寒い風に、を晒したくない。
理由はただそれだけだった。