第14章 過去の遺物
「ね…バージル」
「何だ」
「今は何ともないんだから。バージルだけだから」
「…………」
黙りこくるバージル。
経験でわかる。きっと今、すごくすごく自己嫌悪と嫉妬の葛藤に陥ってて、それがぐちゃぐちゃ渦巻いて整理付かないものだからひっくるめて怒りに変換されている。
それなら最初からしなきゃいいのにね。
人とあまり付き合わなかった彼にはそれが上手くいかない。
「バージルにしか、色がついてないから…バージルしかはっきり見えないよ」
そう言うと、彼はこちらを見た。
腕に触れてくる。
まだ精算されていなかったはずの商品は、の手から消えていた。
バージルは、のその細い手を引いて。
抵抗はない。抱き締めると返してくる。
これで十分ではないのか。
「……すまん」
かすかにそう言うと、は笑った。
「うわ。バージルが素直に謝ってる」
「どういう意味だ」
「だっていつも自分の意見曲げないから」
「…今回は、やりすぎた」
「いいよ。嫉妬してくれて面白かった」
「面白かったとは何だ」
「嬉しかったの間違い」
「………」
身体を離すと、は笑っていた。バージルは困った顔をしていた。
バージルはいつも素の感情を隠そうとするから、こんな素直な感情が見られると嬉しくなる。
やっぱり人間なのね。
それはバージルもわかっているようで、にこにこするに苦笑した。
苦笑して、彼女に囁く。
「俺もお前しか見えていない」
2007/12/12