第10章 無自覚の優しさ
「俺とした事が…」
傘をさす人を眺めていると、不意にバージルがうなった。
振り向くと、悔しそうな顔。
「すまない。傘を持って来なかった」
「え、いいよ。私も持って来なかったし」
それに、雨はまだ本降りではない。今のうちに家に帰れば大丈夫だろう。
そう思い、「帰ろうか」とバージルに言おうとした瞬間。
彼はばさりとジャケットを脱ぎ、の頭にかぶせた。
「え…っ」
バージルの体温が残るそれに戸惑い、見上げると。
「濡れる」
「バージルだって!」
「お前が濡れるよりいい」
言い合う間にも、点々とバージルのとシャツの色が変わっていく。
長袖を着ているのだ。寒くはないだろうが、雨で身体が冷えてしまう。
はいくらかためらったが、ぎゅっとバージルのジャケットを握った。
「…ありがと」
「礼などいらん。俺が勝手にした事だ」
照れているのかいないのか、表情からは読み取れなかったけれど。
シャツの裾をちょんと引くと、バージルは手に触れてきた。
無自覚な優しさって罪だと思う。
2007/09/11