第7章 決断
きらりと鋭く光るナイフ。
響く舌打ち。バージルとヒュウイが同時に気付いた。
震えるの手は頼りなくて、何をするかわからなくて。
ただ、何をしようとしているのかは、痛いくらいにわかった。
がナイフを握りしめる。
見せないで。
見せないで。
血の色を思い出させないで。
「やめろ!!」
「ぁ…いや…」
叫んだ声がどちらのものかなんてわからなかった。
ただこれ以上見たくなくて。
自分を見たくなくて。
「いやぁ……っ!」
ふるった刃。
どうか目の前を、闇で塗り潰して。
私には光はまぶしすぎるから。
どうか。
何も見せないで。
―――ドォン!
刃を振るった瞬間に、銃声が響いた。
同時にの手に衝撃と強い痺れが走り、
かと思うと身体を強く引かれ、暖かさが身を包む。
一瞬の出来事にはただ呆然とするしかなく、見開かれた瞳からは一筋涙が流れた。
視界の端で、紅い髪がぱさりと舞っているのをただ見つめ。
痛みは来ない。
見たくないものも見え続けている。
抱き締められているのだという事を理解するのに数秒。
誰に抱き締められているのかという事がわかるのに一瞬。
「…バ…ジ……」
「何をやっている…っ」
絞り出された声は震えていた。
バージルからは考えられない。抱きしめる腕も小さく震えている。
「何をやっている!!」
怒声に、はびくりと身体を震わせた。
―――怒ってる…
その事に、さっきとは別の恐怖を感じる。
怒りの理由を探る。
探らずともわかる。
自分がやった事を、信じられない気持ちで思い返した。
私は、とんでもない事を―――
ごめんなさい、と言おうとしたの耳に、なぜかヒュウイの声が聞こえた。
「怒るなよ。むしろ感謝しろ」
「咄嗟とはいえ、発砲するとは…!に当たったらどうする!」
「当たるわけねーだろ。そんな馬鹿じゃねえよ」
会話を遠耳に聞いて、先程の短い間に何が起こったのか推測する。
ヒュウイが銃弾でナイフを弾き飛ばし、バージルが抱き寄せてくれたのだとわかるのに、そう時間はかからなかった。
ヒュウイの銃の腕前はが見てきた中でもずば抜けている。
ナイフを弾き飛ばすくらいは造作もない事だろう。