第23章 願い
ひいろは今、家康の腕の中にいる。
ひいろの傷を考慮しながらの道行き。一之助は、案内役。医学の心得がある家康が側にいるのが妥当なことなのだろうが、それでも燻る俺の胸の内。
ことねのお陰で落ち着いては来たが、やはりひいろに触れられないことに、違う男の腕の中にいることに、腹の底にちろちろと青い炎が見え隠れする。
「ここから先は、歩いて頂きます」
先を行く一之助の声に、馬の手綱を引く。家康の背ばかりを追っていたが、見ればそこから先は立ち入りを拒むような竹林が広がっていた。
「馬は、手前共でお預かり致します」
一之助の声を合図に竹を掻き分け、数名の男子が現れる。男と呼ぶにはまだ早い、幼さの残る者が多いように見えた。その中でも年長の者が丁寧に頭を下げ一礼すると、それに習い皆が頭を下げた。
「失礼致します」
年長の者が一言発すると、役目が決まっていたのか其々が動きだす。
一之助の手を借りながらことねとひいろを馬から降ろし、また俺と家康で抱き抱える。馬から降ろしても、ことねは眠り続け、ひいろも瞼を閉じたままだった。
「ひいろは自分が」と言う一之助を断り、家康は大事そうにひいろを抱き直しす。その顔が少し焦っているように見えた。
「申し訳ありませんが、ここからは獣道となります。一番の近道となりますのでご辛抱下さい」
「わかったから、急いで。ひいろの熱が上がってきてる」