第21章 15,5(楽視点)
歯切れの悪い返事だ。
零じゃなければそれでいい。
でもあの声はどう考えても零のものだ。
「あのライブ…お前だろ」
《どうしてそう思うの》
「お前が事務所に就職したって時点で気付くべきだった」
そうだ。ここからすでにおかしい。
歌ってる現場でスカウトでもされない限りこいつが芸能関係者になるはずがない。
「アイドルなんか目指すな」
《な…》
「お前にこの世界は耐えられない」
お前みたいなガラスのハートを持ってるような奴がこの世界で叩かれたら立ち直れるとは思えない。
出来れば芸能界にも触れて欲しくねえ。
《負けない》
「零?」
《楽のこと絶対見返させる》
「俺の話聞いてたのか?」
《私から歌を奪おうとしないで》
「そんなつも…ッ!?あいつ…切りやがった…」
そういやあいつ…負けず嫌いなところあったな。
嫌なことがあっても人前で絶対泣かないようなそんなやつ。
他人に何を言われようが歌うことだけはやめなかった零。
あの後、何度か着信を入れるが零が出ることはなかった。
着信拒否されてないし、気が向いたら返事をくれるかもしれない。
ラビチャ…しとくか。
【悪かった…俺はお前が心配なんだ】