第1章 帰って来た従兄弟
向かったのは駅前
随分と開発が進み、多くのビルが建ち並ぶ
そのため十年前より人や車の通りが激しくなっていた
「なんだか全然知らない場所になっちゃったな」
ぽつりと大和が呟く
離れてる間に色々変わってしまい、思うところがあるのだろう
なんて声をかけていいかわからず宇菜は大和を見上げると、不意に視線がぶつかる
「でも宇菜ちゃんが前より可愛くなったのは嬉しい変化かな」
「え、えぇ!?」
「やだな、驚かないでよ。さっきも言ったでしょ。宇菜ちゃん、凄く可愛い」
落ち着いた筈の心臓が再び悲鳴をあげる
恥ずかしくて死にそうだ
「や、大和くん…。そういうお世辞が言えるようになったんだね」
「違うよ」
「で、でもね!私には昔と同じでいいから!その…私は可愛いとか言われるのが慣れてなくて。いちいちドキドキしちゃうから」
「……むぅ。お世辞じゃないのに」
大和は不満そうに口を結ぶと宇菜の手を取る
やはり指を絡ませた恋人繋ぎだ
「や、大和くん?」
「デートの時間無くなっちゃう。僕は色々見て回りたいんだから」
「う、うん」
手を引かれ、歩き出した大和の横に並ぶ
なんで手を繋ぐのかは聞けなくなってしまった
季節はまだ春
風は少し冷たい
それなのに宇菜にとってはその冷たさが心地よかった
繋いだ手から帯びる熱にはまだまだ慣れそうにない