第4章 彩花。
「今日はだめです。いくら天気が良くとも八千代様のお熱が下がらないまま外に連れ出す等⋯御三方になにを言われるか」
くわっと威嚇するような可愛い玉華に千代も折れてしまう。
「でしたら、何か読み物を⋯」
「だめです!読み物など読んでうっかり素性がばれては私が責められます」
「まぁまぁ、玉華姫は意地悪ですね」
「うぅっ⋯私が読んでいる小説でしたら⋯!」
「まぁ!気になるわ!是非、お願いします!」
「はいっ!」
妹の様に愛らしくころころと変わる表情に魅入られる。
熱のせいか、ぼんやりとする頭。
何か思い出せそうな気分だった。
この顔の火傷のようなものは何なのか、私の体の痣はなんなのか。
あの可愛らしい玉華が悲しげに私の素性を話したくないと言う理由、私の名前。
徹底して隠される素性。
千代は深くため息をつく。
「今晩は卵粥が食べたいわ⋯」
ふと、玉華の髪を思い出す。ふわりふわりと揺れる髪の毛。そろりと自分の髪の毛を撫でる。白く年寄りのように真っ白い髪の毛は短く、幼子の様。
月は美しいと言うが、私は月の髪の方が好きだ。
玉華のもまた、愛らしい。
伸ばそうかなと思いながらももう、伸びない気がしてならない。もしかしたら私は物凄くおばあちゃんなのかもしないと思いながらくすくす微笑む。
もしそうなら、そんなおばあちゃんが独身なのだから、気も狂って雪山に登ったのね。
ころりと寝床に転がると、息苦しさと睡魔に魘われる。
「もう少し⋯眠ろう⋯かしら⋯」
夢の中では月に酷いいたずらをされるんだ。けれど、玉華がぷりぷり怒って止めてくれる。そんな夢を見続ける。
「八千代、今日は随分とまた顔色が悪いね」
毒でも食したかい?と言う雪那に唸るだけ。ぴとりと、月が額に手のひらを貼り付ける。
「熱はあるけど、それだけじゃないようだね」
唸る三人。千代は面白くてくすくす笑った。同じ顔が同じ表情をしていて不謹慎にも笑が零れた。
すると、通りすがった五男が目を見開く。
すかさず雪が口を塞ぎ何かゴニョゴニョ話していた。
「彼は⋯?」
「あれは弟だよ、龍蓮おいで、こちら八千代さん」
「⋯うむ⋯⋯⋯こんな所で何をしているんだ?」
「へ?」
「うん、龍蓮少しだまりなさい」
チャンスかと思った。