第3章 彩歌。
「遅い」
その言葉に深くため息をつく。
彼に待っててくれと言ったつもりはない。けれど、此処は彼の為の場所。
彼の為の人が彼の為に有る場所。
謝罪を一つ落とす。
「して、こんなお時間に何の用でしょうか」
「⋯⋯随分と好き勝手をしているらしいな」
「何のことでしょうか」
「心当たりがあり過ぎてか?」
千代は上着を脱ぎ王の肩にかける。
窓を閉めて、火をつけるという仕草をしながら淡々と答える。劉輝や旺季の前では見せない冷酷な表情。
「どう捉えられても構いません。」
「⋯⋯俺が嫌いなんだろう」
その言葉にお茶を入れていた手を止め振り返りにやりとする。
「貴方は劉輝や清苑ではありません、そんな事を仰って私に何を言わせたいのですか」
知っていて尚突き放す千代に王はむくれていた。
「好き勝手をして貴方に何かご迷惑があるのであれば控えます。私は王の妻ですから」
「⋯」
フォローになっていない嫌味な言葉を王に投げかけた。ふと、窓の外を見つめ溜め息をつく。
「生姜湯です、今宵は随分冷えますから」
そう言って手元に置くと、案の定冷えていた肩をさする。
「今後は貴方を待たせる様な外出は控えます、申し訳ありませんでした」
貴方の身体が次第に冷えていく恐怖を思い出す。
旺季の顔。
王の顔。
声を殺す私の嗚咽だけが響く寝所。
ぴとりと、耳に触れると冷えていた。
そそくさと、火を強くしに離れちらりと王の顔色を確認する。
「お前は⋯俺と結婚した訳じゃないと言いながら俺の心配をするんだな」
「当然です。貴方に何かあっては困ります」
「どういう意味だ?政の事か?」
この人は何をそんなにいじけているんだ。
「いいえ、違います。」
眉間を寄せながら生姜湯を口にしていた。
少し驚いたのは甘いからだろう。
飲まれたことにホットしながら諦めたように継げる。
「貴方を愛しているからですよ」
ブッっと吹き出し慌ててタオルを濡らし駆け寄る。火傷してないか確認して手や顔を優しく拭う。