第10章 彩稼。
戩華は不機嫌そうに蒼姫を呼べと言っていたから。
ああ、そうか、彼女が消えた世界では私が過保護でお前はそうなのかと実感する。
府庫で調べ物をしているのか書物から目を離さない。
「何を調べているんだ?」
「⋯少し、気になってな」
「だから何がさ?」
戩華はちらりと栗花落を見て眉間を寄せる。
「⋯⋯⋯⋯千代と言う娘のことだ」
ドクンと胸が高鳴る。
「千代?ど、どうしてだい?」
「あの娘は俺を呼んでいた。近しい⋯あぁ、近しい⋯見知りのようにな。瑠花の言動もおかしかった。あの日以来瑠花は会う気は無いの一点張りだしな」
「そ、そうか、それで、なんで、府庫なんだい?調べるんなら、邵可に聞けば良いだろう」
確かになぜ自ら足を運んだのか。
「あー⋯まぁ、なんだ、暇なジジイの気まぐれだ」
戩華もわからなかった。
「そういうお前は知っているんだろう」
パタンと書物を閉じて見据える。
栗花落は棚に寄りかかり苦笑いをする。
「初めは⋯妹みたいで、可愛かったんだ。次第に娘のように酷く愛おしくなった。私はね、応援していたんだよ、そんな可愛い可愛い私の娘を」
「で、それはどうしたと?」
栗花落は言葉を選ぶように話す。
「可愛い娘は⋯お前の願いを選んだ。人を殺すことに泣いて、人の死に嘆き、恨み、憎み、無力さに肩を落とし、いつもヒヨコのように元気で、周りに沢山の宝物を笑顔で抱えていた娘さ。なんでも手に入った筈なのに、望んだのはお前のような悪魔の願いだったわけだよ」
ふと、窓の外は秋を知らせていた。
「あの娘は、ただの娘だった。」
まるで、そうではなくなったような言い草に眉間を寄せる。
「ひとつ、ひとつ、またひとつ、愛したものを、置いていった。そして、最後にお前も置いて行き完成されたあの娘が叶えたお前の願い」
「それを俺がどう思った?」
栗花落はからりと笑う。
まるで、目の前の戩華を見ていないように。
「様々だ、けれどね、多く、お前はあの娘に託してしまったんだよ。そうだね、酷い失敗で、唯一今だけが瑠花姫愛されて救われていた。最期だと瑠花姫も私も薄々感じていたんだよ」
含みを持たせる言い回しばかりで苛立つ。