第10章 彩稼。
「何を言われた」
声に出せばそれは怒りを含んでいた。
「⋯栗花落様を許して愛してと」
その言葉を聞いて真っ先に飛び出したのは戩華だった。
怒りそのものの様に部屋を出て千代を追いかけた。
あの娘は。
いつもそう。
いつ何時も、自分の体も幸せもこの世に望まない。
いつも願うのはこの世の他だ。
外に出ると、ふらりとした身体を栗花落が掴んでいた。
くすくすと笑い合い、振り返る。
たおやかな笑顔。
「戩華私が──「ダメだ」
まゆを下げて目を閉じる。
暗闇で表情が良く見えず、じゃらりと乾いた地面を踏む。
「⋯⋯戩華、代わりに栗花落様にお願いしましたから、ね?」
「ダメだと何度言わせる」
千代は袖から腕を抜くと、戩華に手を伸ばす。
頬にぺとりと、冷えた手のひらが触れる。
満足げに千代は微笑んでいた。
「あぁ、こんな余計なものを貴方は抱えていたのですね、私の計画が上手くいかない筈ですね」
何を言っているのか分からなかった。
悲しげに眉を下げる。
「貴方には必要ないものです、私に返してくださいね王様」
身を引いたが遅かった。
ぼやける確かに持っていた自分ではない自分等の記憶。
「何を、する」
「言った筈です、貴方に一言言われたいのですよ。もう私は要らないと、良くやったと」
千代がふらりとするのを見て支える。
困ったように微笑みながら頬に触れる。
赤い瞳が輝き、吸い込まれそうになる。
「王様には要らないでしょう、そんなもの。だから返してくださいな」
悲しげに泣くから。痛むように笑うから。
妃を愛おしいと思う気持ちまで消されそうで、手をつかむ。
ぐらぐらりと揺れる頭の中。
気持ち悪くなり千代を見つめると掴んだ手には何かを大事に強く握りしめていた。
「ソレはお前のものでは無い」
「いいえ、王様。これは私だけのものです。後少し、さぁ、全部返してください」
「栗花落、止めろ!」
栗花落を見るが、不機嫌そうな顔をして聞かぬふりをされる。