第8章 彩火。
「ねぇ、絳攸」
「⋯あぁ?」
「千代様ってどんな人なんだい?」
「⋯⋯俺は会ったことはない」
「⋯ふぅん、あ」
間抜けな楸瑛の声にふと、視線を窓の外にやる。
そこには、劉輝陛下が千代様にゲンコツをされるという光景に出くわす。
それはそれは痛そうな音がしていた。
多分陛下でなくても泣くであろうと。
楸瑛は口元を抑えていたが窓から離れ大笑いをする。
絳攸はと言えば初めて見る王妃の姿に目を見張った。
美しい白い髪の毛。
確かに顔のやけどは目立つが、紅い柔らかな色の瞳。
魔女と噂されるだけの容姿をしていた。
「何度言えばわかるのですか。劉輝。母も心苦しいのですがもう一度言います。清苑はおりません。そして、戩華もおりません。いつまで甘えん坊をなさるのですか。」
「っ~私はっ私は王になどなりたくなかったのだ!」
その言葉に千代は目を丸くして、うつ向く。
「左様ですか、なれば仕方ありませんね。戩華にそう伝えましょう。あぁ、劉輝。秀麗もそろそろ結婚するでしょうね。それと、戩華は絶対に国試に女人は入れませんよ。貴方は考えていたようですが、あの人は絶対に旺季様に誓って入れません。あなたの願いも、夢も、恋も全てを投げ捨てる事になりますが、よろしいのですね?」
劉輝は何も言えなかった。
全て、叶えたいこと、考えていた事を彼女は見透かした。
「私と貴方が親子になるまで時間がかかったように、戩華の臣下があなたの臣下になるまでには時間がかかるでしょう。そして、貴方の臣下を作らねば、愛さねば、護らねば何一つ貴方は手に入らないのです」
くわっと、口を開いたがうつ向く。
「貴方は誰より優しい子。劉輝、昔に言ったわね。戩華王は孤独だと。」
目を潤ませ頷く劉輝。
「劉輝、なら、貴方は大好きな人にその場所を譲るの?それとも、貴方はその孤独と戦うの?貴方はどちらを選ぶのですか?」
「⋯⋯⋯千代は⋯意地悪だ」
「⋯はい」
「千代は⋯余を⋯愛してくれるか?」
「えぇ、誰より愛しています⋯いつまでもいつまでも、可愛い可愛い私の公子ですよ」
そう言って抱きしめられている劉輝王を見て頭を抱えた。