第8章 彩火。
「⋯⋯千代!~⋯!」
息子の声にふと、身体を起こす。
隣を見るとすやすや眠る夫。
気だるさに額を抑える。
眠りを妨げまいと、毛布を掛けなおし、そろりと抜け出そうとする、が、腰を掴まれる。
「何処へ行くつもりだ」
「おはようございます、戩華。劉輝が私を探しているのですよ」
「放っておけ⋯俺はまだ眠い⋯黙って居ろ」
千代は小さくため息をつく。
乱れた前髪を撫で微笑み顔を入口に向ける。
「栗花落様、戩華がお呼びです。」
そう言って素早く立ち上がり寝間着を脱ぎ捨てさっさと、服を着ると髪をまとめる。
「母様?」
「はー戩華何の用だい?」
ふわりとした薄紫の髪の毛、クリクリとした赤い瞳。
凛とした黒い髪の毛に優しい美しい面立ちの二人組が部屋に姿を表す。
千代は眉間を寄せ笑作る。
「あら、蒼姫姫様も御一緒でしたか。おはようございます。栗花落様、私は劉輝の処へ参ります。戩華をお願いします」
拍子抜けしたような顔をする栗花落は小さな手を握っていた。
蒼姫と呼ばれた幼子は眉を下げ千代を見上げる。
「千代、誰が栗花落を呼べと言った」
不機嫌そうに床から睨む戩華。
「申し訳ございません戩華、私は劉輝の元に参りますので、失礼致します」
恭しく頭を下げ、背を向けると簪を刺し、鏡を見てそっと置く。
「お兄様に会うのですか?母様!」
「栗花落様、後のことをお願いします。」
まるで聞こえないかのように、栗花落に告げて部屋を出ていく。
「母様!かぁあさまぁ!!」
呼び声に答える者はいなかった。
ぎゅっと栗花落の手を握り俯く。
劉輝が王になり、がらりと変わった。
甘えん坊の王動かしているのは彼女だった。
霄は黙り、劉輝は甘え、千代は叱る。
戩華はそれが面白くはなかった。
10になる蒼姫は母、父というものが理解し、その母が劉輝とは随分と違う事が解ってきていた。
戩華はじっと蒼姫を見ていた。
この娘は泣かなかった。
いつも千代に冷たくされ、涙を溜めても、ぐっと堪えていた。
どこで覚えたと思うが、栗花落を見て納得する。
あぁ、栗花落を見て学んだのだと。
「蒼姫」
「はい、お父様」
栗花落は怪しがり眉間を寄せる。
「千代は好きか?」