第7章 巌窟王
「……突然どうした、マスター。」
アヴェンジャーは、どこか可哀想なものを見る目で、私を見ている。その視線が、痛い。
「何も……、ない、です……。」
俯いたまま、絞り出した言葉は、私の予想よりも随分と弱いものだった。
「あぁ、気にしているのか。説明する時間も、惜しかったからな。 ……、悪かったな。」
「そんなこと、ない!」
アヴェンジャーにしては珍しい、謝罪の言葉。でも、それよりも。
「……。私は……、……っ。……、嫌じゃなかった、よ……。」
突然のことだったから驚いたけれど。それでも、私はあの時確かに、アヴェンジャーを……、ううん。エドモン・ダンテスを感じられて、嬉しかったんだ。
「むしろ、ね。アヴェンジャーと一緒に戦えてるんだって、確かに感じることができて、嬉しかったんだ。」
恥ずかしいけれど、自らの本音を、言葉にしてみた。嘘偽らざる、私の気持ちを。
「……、そうか。」
アヴェンジャーは、そう言って、下を向いた。あれ? アヴェンジャーが俯くなんて、珍しい。普段の彼は、間違っても控えめな態度なんて取らない。もしかして、アヴェンジャーこそ、気に障ることがあったんじゃ……。
「あ、こっちこそ、ごめんなさい! 私が半人前なばっかりに、パスを通じてだけじゃ、充分な魔力供給ができないから……! だから、アヴェンジャーに、あんなこと、させて……! アヴェンジャーこそ、嫌じゃなかっ……」
嫌じゃなかった? と尋ねようとしたけれど、その言葉は、最後まで言えなかった。