第1章 プロローグ
これから向かうのは臨時捜査本部。
いつもはほかのところに本部があるらしいが、今回、もう一冊を持つ『キラ』により、人質をとられてしまったため、急遽臨時捜査本部を香港に作ったそうだ。
「もともと二冊ともキラの手にあったのですが、一冊はこちらが押収しました。その後、こちらの捜査員が人質にとられまして…」
ひどい拷問が行われている映像が毎日送られて来るそうだ。
「宗教家とは思えぬ残忍な振る舞い。私たちもそうそう手を出せない状況にあります」
本当はノートを処分したいらしいけれど、そうすれば人質交換に応じてもらえなくなってしまう。
今回の「キラ」はとある新興宗教の幹部だそうで、その中の誰かはまだ割れていない。
そして、人質交換の場所がこの香港である。
なんだか、とんでもない事件に巻き込まれてしまった。
「本当に、大変な人物の手に渡ってしまったものです。
かなり過激な思想をお持ちのようですし、下手したら戦争が起こりますよ」
私に何か役に立てることがあるのだろうか。
まるで現実感がなく、たくさんのモニターのある部屋をぼんやりと眺めていることしかできなかった。
「ばびゅーん」
そう言いながらニアがおもちゃの飛行機で遊んでいる。
そしてさいころで作られたニューヨークのジオラマに向かって突っ込んだ。
脆くガラガラと崩れる町。
「ああ、そろそろ…」
崩れた町を無表情で見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「…那美さん。長旅でお疲れでしょうから、少し部屋でお休みください」
「あ、うん…わかった…」
時差ぼけも手伝ってぼんやりとして何も考えられない。
ハルさんという女性の捜査員に部屋に案内された。
部屋は高層ホテルの14階。そこそこ街が一望できる。
臨時捜査本部は地下にあるのだが、特殊なキーがないと、地下へのボタンが現れない。私はそのキーを渡された。
「あなたは自由に立ち入りができるから、何か用があれば降りてきて頂戴。今日は…ゆっくり休んで」
そう言って扉を閉められた。
今日一日で大変なことになってしまった。
あ、友達にいけなくなったって言わなきゃ。