第1章 [HQ]やっちゃんと。①
「おい及川、てめぇ…」
声のする方を見ると、光の影になって佇む青年がいた。
「人がてめぇのために働いてたっつーのに、
自分はこんな路地裏に女子連れ込んでなにやってんだボケェ!」
ボキボキと指を鳴らしてずんずんと進んできて、及川の胸ぐらを掴む。
「わーっ!岩ちゃん落ち着いて!
何もしてないから!誤解だってぇ!
ただ撒くのに付き合ってもらったの!」
(このひと、たしか青城のエースさんだ…!)
及川の至近距離ドアップから助けてくれたのはいいが、
岩泉は今にも殴りかかりそうである。
(な、なんとかしないと、私がいたばっかりに無実の及川さんのお顔に傷がぁあ)
「あっあの!っほんとに何もされてませんので…!どうか拳を納めていただきたく…!」
「ん、そうか。…て、烏野のマネじゃねぇか」
パッとあっさり手を放し、岩泉もこっちを見た。
「さっきから言ってんじゃん!俺より女の子を信じるの!?」
「おめーは信用なんねーからな」
「ひどいっ!」
「世話ンなったな。また見つかんねーうちにさっさと行くぞ」
ぺこりと頭を軽く下げて岩泉が先に歩き出した。
「ありがとね、えーと…」
「あ、谷地仁花です!」
「そっかー、可愛い名前だね。…あ、及川さんからいっこ忠告」
にっこり笑ってこちらに近づいてきて、
「あんまり男の前で…真っ赤にならないほうがイイよ?」
(…いじめたくなっちゃうからね)
「じゃ、ばいばーい。仁花チャン」
ひらひらと手を振って及川は岩泉のもとへ向かった。
(…!!?み、みみがぁぁぁあ!)
対して仁花は、囁かれた耳を押さえてその場にしゃがみ込んだ。
イケメンには要注意だと学んだのだった。