第161章 あなたにもう一度後日談(8)
夜遅くにも関わらず……
突然、子を引き連れて訪ねてきたひまり。その姿を見て、信長は瞬時に悟る。
(あの馬鹿。また、下らんことしおって)
ひまりは何も言わずただ赤い目をして「暫くお世話になります」と言い、深々と下げた頭。信長は黙ったまま、自分に向けて下げた頭を優しく撫でたのであった。
こうして同時に信長と家康の戦いも……始まる?
「………………」
「………………」
安土城の広間にて、男二人が火花を散らしながらただ黙ったまま睨み合う。家康は完全に敵意剥き出しだったが、信長は冷酷な笑みを浮かべながら呑気に奥義で自身の顔を扇ぐ。
「……何、考えてるんですか」
痺れを切らし先に口を開いたのは家康。
「貴様こそ、何を考えておる」
扇ぎながら、冷たい声で逆に問いかける信長。
「ひまりをあんな下らない催しに、本気で出すつもりですか?」
「織田家の名誉がかかっているからな。今朝も早々に起きて、健気に舞の稽古に励んでおる」
「今すぐ連れて帰ります」
「本人が帰りたければ帰る。帰らないと言う事はそうゆう事だ」
「……っ!」
羽織を翻し部屋から出て行く家康の背中を、信長は黙って見送った。
(なるほどっ!いきなり激を飛ばすのではなく、二人の成り行きを見守る手を使うのか!!)
襖から覗いていた佐助は、急いで家康の後を追う。
「ひまり様、次は利き足を……」
「はい!!……こうですか?」
「そのまま膝を曲げて……」
「膝を曲げて……っわぁっ!!」
「だ、大丈夫でございますか!?」
「大丈夫です!!続けて下さい!」
家康は稽古部屋の襖を手にかけたまま、向こう側の会話にじっと耳を傾け……連れて帰るのを躊躇していた。
(そうやってすぐ、無理するから嫌なんだ)
日頃から何でも一生懸命に取り組もうとするひまり。だからこそ、無理して欲しくない。
しかし、言い出したら聞かない性格なのも知っている家康はそのまま背を向け……浮かない表情をして去って行ったのだった。
(せ、切ない!切ない気持ちがひしひしと伝わってきますよ、家康公!)
もはや佐助は昼ドラを見るように興奮していた。