第71章 約束の地へ 後日談(9)
「ひまり、今夜から城に戻れ」
「『えっ!!!』」
城に着いた俺達に、信長様は唐突にそう告げニヤリと笑う。
(まさか、城から大行列させる気じゃ……)
「ひまりは知らなくて当然だが、お前は解っておるはずだ」
「……ですが、ひまりにあまり負担をかけたくありません。嫁入り道具もこちらで用意するつもりです」
本来格式のある両家の婚儀の場合、花嫁は嫁入り道具を持ち、嫁ぎ先まで大行列をしながら輿入れをする。しかし、身重なひまりには辛いものでしかない。最低限それだけでも省いて、祝言を挙げる予定だった。
「嫁入り道具は明日商人が持ってくる。その中からひまりに気に入ったものを選ばせるつもりだ」
「しかしっ!」
「別に大行列させるつもりなど端から無い。ただ、ひまりを城から嫁に送り出すのが俺の役目だ」
あまり煩いと、嫁にやらんぞ。
(……っとに。相変わらず無茶苦茶で勝手だし)
口答え出来ず俺は押し黙る。
隣で静かに会話を聞いていたひまりは、私なら大丈夫だよ。と、言うように俺の羽織を掴み笑った。
「ひまりのが物分かりは良さそうだな。そもそもお前の所に置いておく方が、負担がかかるのではないか?」
どうせ、毎晩ろくに寝かせておらんのであろう?
その言葉には反論出来ず、目の前で脇息に寄りかかり嫌な笑みを浮かべる男を睨む。
「……解りました。祝言の前日迎えに来ますので、それまでひまりをお願いします」
夕方に一緒に呉服屋に行くことだけは許しを貰い、その場を後にした。