第36章 捕らわれた未来(9)
次に気がつくと、見覚えのない部屋に居て、自由にならない身体を必死に動かす。
目の前で捉えられた鋭い瞳。私は絶句して、その人の冷たい表情に背筋が一気に凍りついた。
「……せいぜい人質として役に立て」
髪を一房切られ、耳飾りを片方奪われ、泣き叫ぶ暇もなくて……引きずられるように牢の中に入れられ、ようやく自分の置かれた状況がどれ程家康や信長様に迷惑がかかるか理解するのと同時に、私は格子にしがみ付き声を上げる。
「お願いっ!出してっ!出してっ!!」
牢番に煩い!と怒鳴られても、私はありったけの声を絞り出す。
「誰かっ!誰かっ!」
私が捕まったと知ったら、自分の身体なんてなり振り構わず、家康はきっと此処に来てしまう。
「お願いっ!ここからっ!ここから出してぇぇぇ!!」
手に指が食い込もうが、喉が張り裂けそうになろうが、私は必死に叫び続けた。
(家康っ……)
ごめんなさい。
迷惑ばっかりかけて。
私はずるずると格子に持たれながら、しゃがみ込む。
早く会いたい。
助けて欲しい。
でも、来ないで欲しい。
矛盾した気持ちが二つ。
私の中でぐるぐると渦巻いていた。