第11章 二人の宝物 二章
よく晴れた空に
ゆっくりと太陽が登り、
少し肌寒い夜明けが訪れる。
躑躅ヶ崎館の一室では、
信玄と凛が
寄り添って眠っていた。
夫婦になって六年。
子宝にも恵まれ、仲睦まじく
二人で寄り添い、季節が巡っていった。
一方、二人の眠る隣の部屋には
モゾモゾと四つの影が蠢いている。
「ねえ、兄上。今日は何する?」
母親によく似た大きな瞳を爛々と
輝かせているのは長女の真理姫。
「静かにしろ。母上が起きてしまう。」
二つ歳の離れた長男は義信。
父によく似た栗色の髪に、
歳は六つながらも端正な容姿が際立つ。
「ちちうえー。」
「ははうえー。」
布団の上で笑いながらコロコロと
もつれ合い、転がる双子は
もうすぐ三歳になる松姫と菊姫。
「真理、今日も幸村で遊びたい!」
「あそぶー!」
「ゆきむらー!」
キャハハと三人の妹達の笑い声に
義信はにっこりと笑みを浮かべた。
「じゃあ、そうしようか。」
信玄譲りの性格か、なぜか義信は
妹達の愛らしい笑顔には逆らえない。
「ゆきむら、どこー?」
「どこー?」
布団の上で転がっていた勢いのままに
急に起き上がり、タタタっと
部屋から飛び出していく双子。
「あっ、私も行くー!」
それを追いかけて真理も飛び出した。
飛び出した三人に義信は笑みを零し、
やれやれと言わんばかりに首を振り
妹達が暴れていた布団を整えてから
ゆっくりと部屋を出る。
「いい天気だなー。」
朝の空気は澄んでいて、
ひんやりとした風が心地良い。
こうして今日も武田家の賑やかな
一日が幕を開けた。