第19章 あの星空の彼方に(謙信)
『愛さん、準備はできた?』
佐助が襖の外から声をかけると、
「佐助くん?うん、さっきできたところ。どうぞ」
と、愛の声がした。
『お邪魔します………っ!』
愛は振り返って襖が開くのを見ていた。
現れた佐助とふと目が合うと、何故だか一瞬佐助が固まったように見えた。
「どうしたの?」
キョトンと小首をかしげ、愛が訊く。
『い、いや、なんでもない。
信玄様たちが、愛さんを待ちわびてたから見にきたんだ』
そう言いながら、愛が座っている障子のそばへと近寄った。
「ごめんね、準備終わったんだけど、慣れない着物をきて疲れちゃって、
少し夜風にあたってたんだ」
新年の宴という事で、愛は謙信から送られた豪華な晴れ着を身に纏っている。
愛の座る後ろには、満月が煌々と輝いて、
髪を全て下ろしている姿に釘付けになった。
『すごい豪華な着物だね…まるで…』
かぐや姫のよう…
そう言いかけて、佐助は先程の謙信の言葉を思い出す。
(不吉な喩えをするな…)
「まるで?なに?」
様子のおかしい佐助に不思議そうな顔をしながら、愛が答えをまっている。
『いや。新年にはぴったりだと思った』
淡々という佐助の言葉に、愛は嬉しそうに笑う。
「謙信様が見立ててくれたの。着こなせるか不安だったけど、よかった!」
愛は袖を広げながらはにかんだ。
『月を見てたの?』
「うん。ほら見て?星もすごく綺麗。
オリオン座がこんなに近く見えるよ」
少し弾んだ声で愛が夜空を見上げる。
この時代の空は、余計な灯りがない分、星や月が手に届きそうなほど近く見えた。
『相変わらず、星が好きなんだな、君は』
佐助も、目を細めながら空を見上げた。