第90章 残り香
腕の中の温もりを確かめながら、髪を撫でて細い腰を抱く。
誰かも、私と同じ気持ちでこの背中を撫でたのでしょうか?今だけは自分の物だと感じながら。
「…我慢、しなくても宜しいのですよね?」
きょとんとした顔で見上げたさんの額に口付け、そっと瞼、目尻、両頬へ触れるだけの口付けを落としていく。
「いち、ごっ…」
鼻の頭に、わざとチュッと軽い音を立てながら口付けると、さんは意味を理解したのか、急に視線をさ迷わせる。
「さん、しーっ…」
人差し指を唇に当て、逃げ出しそうになっている手を握り直し、頬に手を伸ばす。
唇の両端へ口付け、唇へ触れる。緊張の為か、きつく閉じられた唇を解かす様に、幾度も唇を重ねた。