第90章 残り香
「散歩、と言うのは嘘ですね。」
「え‥」
「私に気を気遣われての事でしょうが、その様に誰かを感じ取れる状態ならば、嘘をつかれるよりも、あのまま部屋へ帰っていただきたかった。」
私が印を付けた時、他の皆さんはこの様な気持ちだったのでしょうな。
私と違い、誰かに気付かせたいと、意図して付けた香りではないとしても、気付いてしまうと何とも言い難い気持ちになるものですね…
ごめんなさい、と小さく呟き下を向くさんの頭を撫で、顎を持ち上げる。
「その様な不安な顔をさせたい訳では無いのです。ただ、私も…」
愛して下さい。私にも触れて下さいませんか?
私には、弟達の様に、大好きだと声に出して抱き付いたり、燭台切殿や鶴丸殿の様にスキンシップだと言って貴女に触れる事が出来ません。