第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
梨央ちゃんと初めて出会ったのは、俺が中一の夏休み。
その日は部活もたまたま休みで、研磨んちでDVDを見ながらダラダラして過ごしていた。
まだ小学生だった研磨は宿題や部活に追われることもなく、俺以上に夏休みを満喫していたと思う。
主にゲームに時間を費やしながら。
ふとアイスが食べたくなって、研磨と二人でコンビニへ。で、その帰り道。
前から一人の女の子がやってきた。
俺は顔なんてよく見てなかったけど、普通にすれ違った所で研磨が呟く。
『あの人、さっきもいた』
『そうだっけ?』
『誰かの家探してるのかな』
確かに、道を行ったり来たりしながら辺りをキョロキョロ見回している。
『クロ、声かけたら?』
『何で俺』
『得意でしょ』
まあ、こんな炎天下ウロウロしてるのも気の毒かと思って、俺はその女の子に声をかけた。
『あの。誰かんち、探してます?』
長い黒髪のポニーテールに向かって尋ねる。
『え?』
振り返ったその子は、真夏なのに真っ白な肌で、涼しげな顔をしていて…。
少しドキッとした。
それが、梨央ちゃんとの出会い。
聞けば昨日引っ越して来たばかりで、コンビニに行ったはいいが帰り道がわからなくなってしまったらしい。
この子の家が研磨んちのそばだということがわかり、俺たちは三人で一緒に歩き始めた。
『あの、年…いくつ?』
『俺は中一。こいつは小六』
『そっか。少し下かなって思ったんだけど。私、武田梨央です。中三。二学期から転校するからよろしくね。えっと…』
『黒尾鉄朗です』
『鉄朗くんね?』
俺たちは揃って研磨を見る。
『孤爪研磨…です』
小さく名乗る研磨に、彼女はにっこり「よろしく」と言って笑った。