第26章 Scarlet Heart…III
「……今夜の巡回は済んでいるらしいが……
何と無く、きな臭くて」
「巡回? 警察の方ですか?」
見上げる首が痛い。
月を背に私に語りかける袴姿のあの人は、
顔を晒すつもりは無いみたいだ。
私の問いに、その人は戯けるように微笑した。
「ハ。 軍警ときたか。そんな訳ないであろ。
ま、似たような組織に与しているやも知れないがね。」
嗚呼、何だろう。
頭が痛いのに、あの人とこうして話していると
記憶に靄が掛かってくる。
脳が、その人を人だと認識したくないと言っているみたい。
気配も存在も曖昧模糊として、希薄で、薄っぺらい。
「……名を」
「駄目だ」
言い切る前に断固として宣言された。
やけに鋭い気迫は、このまま喰い殺そうとする獣の危うさ。
私は口角を上げて、笑った。
久々の殺気だ。
マフィアから離脱して早々 浴びることのなかった
懐かしい空気。
「私が名乗ったら、マナー的には貴方もしなければいけないと思うのだけれど。」