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日章旗のデューズオフ

第7章 【肆】煉獄&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



きっと何が嫌とかではなく、今回は俺のやる事成す事全てが受け付けないのだと分かって、早々に対応を打ち切った。しかしその切り替えの早さもまた気に入らなかったようで、上がり框に用意しておいた風呂敷を引き掴もうとする俺の手を容赦無く踏み付けた。
「痛い」
「まだ私との話は終わってませんよ、木偶の坊。今日は煉獄さんの経過観察最終日。肉体に問題がなければ静養も終了、柱に復帰。お館様の許可次第では即日稽古の参加も可能です」
「ほんとか……! 良かった……!」
「ですが貴方が自分の都合で邸を離れるせいで、私は半日此処に拘束されます。煉獄さんの事は鴉を飛ばさずに直接あの御方へお伝えしなければならないのに、ですよ。ここまで言えば分かりますか? 分かりませんよね、莫迦だから」
「し、しのぶ」
「午前の内にお館様へ報告が出来れば、昼には柱の空席が埋まります。なのに木偶の坊の我儘ひとつで、報告と復帰が半日遅れになったとしたら、どうなると思いますか。無い頭で良く考えて下さい」
「……」
「彼が失った体力を少しも取り戻す事なく、鬼の時間になるんです。鬼が出現しない夜は今日が最後かもしれない。今晩にはまた鬼が世に蔓延るかもしれない。目の前で愛する者を食い殺され、傷付き、悲憤に苦しむ人々が出るかもしれない」
「……」
「流石の貴方もここまで言えば理解しますよね。快復した煉獄さんに救われていた筈の命が、貴方の判断で喪われると言ってるんです。責任が持てるのですか、柱の復帰が遅れたせいで喪われる命の責任が」
「……」
最後の最後に「貴方は柱の貴重な一日を蔑ろにしようとしている」と吐き捨てられた瞬間、脳髄を握り潰されたような衝撃を受けた。しのぶの言う事は最もである。
考え過ぎだと一蹴してしまうのは簡単だが、鬼舞辻無惨が暗躍する限り、悪鬼が跳梁跋扈している限り、楽観的ではいられない。尊重されるべきは逸早くの柱の復帰。天秤に掛けるべくもなく杏寿郎さんが優先されなければならない事だ。
そしてきっと『柱の貴重な一日』の中には蟲柱である彼女の一日も含まれる。彼女は柱稽古に参加せず、別件に力と時間を割いている様子だったから、一分一秒でも惜しいのだろう。それを俺に奪われている現状が耐え難いのだ。噫、やはりしのぶは生真面目な性分なんだな。

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