• テキストサイズ

日章旗のデューズオフ

第12章 【玖】胡蝶&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)



大人しそうなカナヲは未だしも、好戦的な伊之助辺りが真っ先に噛み付いてくるかと思ったが、真っ直ぐに異議を申し立ててきたのは紅鶸の瞳を爛々と輝かせた竈門だった。度重なる上弦との接敵及び撃破の経験に裏打ちされた自信が、此奴を突き動かしているのだろう。まぁ、そこは誰でも構わないのだ。実力差を調整されれば反発心が生じる事など想定済みであったから。
(しかし真面目だな……)
そんな奴の顔面に、一般人の目では決して捉えられない速さで石筆を振る。手首を橈から尺へ、背から掌へそれぞれ屈して、鼻梁を中心に十文字の線を引いてやる。込み上げる嗤笑を抑止出来ない、嫌な先輩を演じながら。
「――て……、ッい"!?」
「っは。石筆で良かっただろ。これが日輪刀だったら今頃、顔が四等分されて死んでる」
柔らかいと銘打てども、蝋であり石である石筆で容赦無く皮膚を引っ掛かれれば翻筋斗打つほど痛いに決まっている。武器を構えぬ内から危害を加えられる筈もないと油断し、不意を突かれていれば尚更だ。
それでも竈門は我慢強かった。痛みに敏感な三叉神経が集中する部分に鋭い衝撃を加えられたにも関わらず、相貌を歪めながらも震える掌で口元を覆って咄嗟に呻き声を噛み殺していた。
「っ……ッふぅ、ッふぅ」
「手合わせの間、どれだけお前達の身体に石筆の痕跡が残るかな。頸は危険だから避けてやるが、手加減はしねぇ。本気で行く。落描きだらけになりたくなけりゃ、空蝉の為にも殺す気で掛かってこい」
「……名前さんに本気を出して貰えるなら、願ってもない事です。格上の人に叩き上げて貰う事は、自分を伸ばす近道のひとつだ」
「……殊勝だな?」
俺が眇目したと同時に、竈門は片脚を引いて腰を下げる。杏寿郎さんから譲り受けたらしい炎の鍔が目を惹く日輪刀へ順手を掛けて、柄を丁寧に握り締めた。掌と柄紐が摩擦のせいでギチギチと物凄い音を立てている。
竈門から発せられて練り上げられていく気魄に煽り立てられたのか、昂りのまま哄笑した伊之助は、鍔の無い抜き身の刀を振り回す。カナヲも、竈門と伊之助と遠方から俺達を静観している蟲柱殿を強く意識し、集中力をグッと高めたようだった。
「暴れてやるぜッ! 覚悟しとけ玉ジャリ継子野郎ッ!」
「気持ちで、負けない……!」
「名前さん、いきますッ!」

――さあ、陽が昇る。



第玖話 終わり
/ 176ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp