
第11章 【捌】悲鳴嶼&宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)

広間の中へ踏み入った途端、好奇心を隠さない数多の視線を浴びて身震いする。他人へ然程の興味を抱かない、少なくともその様な姿を拝見した事は無い水柱殿や霞柱殿までもが、妙にしげしげと俺を見詰めてくる。居心地が悪いったらないので総面取りに戻って良いかな。回れ右。
「何処へ行く。座れ」
「あたっ」
その場で踵を返した俺の額を、まるで見えているかのようにペチッと掴まえた悲鳴嶼が無情にも命じる。まぁですよね。凄まれるままに下座へ進み、末席で胡座を構えるが、針の筵へ座ったような心地なのは流石に被害妄想が過ぎるだろうか。否、伊黒大兄がつぶさに観察してきているようだから、正しい感覚かもしれない。
(なんなんだよ、皆して……)
訳も分からず後頭部を掻き混ぜていると、廊下側から騒がしい連中がやってきた。吊り灯火具を避けて鴨居を潜ってきたのは天元で、その後ろを三人の隊士が追随している。
三人のうちの二人は完全に萎縮しており、肩身が狭そうに俯いている。一人は竈門炭治郎で間違い無く、もう一人は面識の無い隊士だったが、長い毛束を留める蝶の髪飾りには見覚えがあった為、蟲柱殿のところの子かと合点した。
「俺の力を欲する奴はどいつだ!!」
最後の一人は常識外れな性質を示唆するような猪頭を被った半裸の少年である。刃毀れの酷い二振りの日輪刀を頭上で振り回しながら「腹が減った! 約束の天麩羅を寄越せ!」と脈絡の無い要求を吠えている。直ぐに天元から拳骨を落とされて、威勢が削がれていたけれど。
「騒ぐんじゃねぇッ! 此処じゃ猪頭脱げっつったのに被ったままだし、少しは俺様の言う事聞けってんだよッ!」
白い歯を剥き出しにして怒鳴る天元が猪頭の被り物を剥ぎ取ると、太い声からは想像も出来ない美少年が下から現れた。翡翠の瞳には無垢な輝きすら含まれていて一層驚く。
そのまま腰蓑ごと臀部を強かに蹴られた美少年は「何すんだ、オッサン!」と背後へ向かって噛み付いたものの、眦を吊り上げた天元に圧倒されたのか、いま以上の罵声を飲んだようだった。
鼻を鳴らす下品な仕草さえなければ凛とした佇まいが絵になるのに残念だ。苦い笑いを噛んでいる内に、俺の真横へ座るよう命令され、不承不承といった体を隠す事なく、勢い良く座布団へ腰を下ろしていた。果てさて彼等はどうして柱合会議に呼び出されたのだろう。
→
