第1章 家庭教師〜チョロ松〜
ティッシュを箱ごと手渡すと、お兄ちゃんはお礼を言いながら鼻にティッシュを当てて恥ずかしそうに俯いた。
何で鼻血が出たのかと尋ねれば、シュークリームがチョコ味でカカオマスにやられたとかよく分からないことを言い出す。
動揺してるのがバレバレで可愛い。
「あのさ、何でもいいけどこよりにして刺したら?」
「そ、それはブサイクに…じゃなくて、恥ずかしいからいいよ」
そんなこといちいち気にしていては、いつまで経っても血が止まらないのではないかと思い、こよりを作ってチョロ松お兄ちゃんににじり寄った。
「ダメだよ。私のために早く止血してくれないと。はーいちょっと上むいてくださーい」
「何!?やめてやめて!うわっ!!」
とす、とバランスを崩し、なだれ込むように二人してカーペットに倒れる。
その時、私の肘がテーブルにぶつかった。
「痛っ」
「大丈夫!?」
左肘を大きな手の平で撫でられ、そして仰向けのチョロ松お兄ちゃんの上に乗っかり…まぁ、ドキドキしない筈が無かった。
心配そうにつぶらな瞳が私を見ている。
「今日ははしゃいでどうしたの?」
声変わりしてからそんなに会話してなかったけれど、いつの間にこんな素敵な声になったんだろう。
私が大好きな、あったかくて優しい声が耳元で響く。
「……」
態度で伝わらないなら、言葉にしないと。
「今日、だけじゃない…」
もう自分の気持ちを抑えられない。
「……ずっとだよ」
「え?」
「ずっとはしゃいでた。チョロ松お兄ちゃんが、家庭教師になってくれた日から…」
苦しいほどの思いが声となって溢れ出す。
「主…ちゃん?」
鼻血を出してる彼に向かい、私は何を言おうとしているのだろうか。