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海を想う、海を愛する。【ONE PIECE】

第7章 それからの一年


 そんなことを思い返し、背徳感を覚えずにはいられないマルコ。
お琴はそれを楽しそうに眺めながら、『別に咎めやしないさ』と流したあと、意味深に付け加えた。
「“無自覚”なうちはね」
母親代わりのお琴だけが、沙羅の微かな変化に気づいていた。
そして、その後ろ姿を名残惜しそうに見つめた。
“自覚したら、さぞかし愛おしく、ややこしいに違いない”
「?」
急に黙ってしまったお琴の胸中を知るよしもないマルコは不思議そうに眺めた。
「・・・大事にしてやっておくれよ」
その視線を遮るように立ち上がるとお琴は、言い残し沙羅の元へ戻った。


 それから、香りを選び続ける二人をマルコは、ぼんやりと眺めていた。

暫し後。
ふと、こちらを見た沙羅にマルコは何となく腰を上げた。
呼ばれた気がしてそのままそばに向かえば、差し出された試香紙からふわっと微かな甘さが香った。
それは何とも言い難いかぐわしい香りだった。
透明感のある甘さはみずみずしさと、控えめな華やかさを感じさせる。
清らかで優しく、神秘的な雰囲気さえも感じさせる、その香りは沙羅そのもののようだった。
「いい香りだねい」
マルコは思わず言った。
「本当に?嫌じゃない?」
「あぁ、俺は好きだよい」
「よかったぁ!」
マルコが気に入ってくれたことにほっとして、嬉しそうに笑う沙羅。
自分が好きになった香りをマルコも好きだと言ってくれる。それが堪らなく嬉しかった。

そんな微笑ましい二人のやり取りをお琴は嬉しそうに見つめていた。
「お琴さん!」
目をきらきらとさせて、自分を呼ぶ沙羅。
「蓮の香りだ、いい香りだねぇ・・・」
そう誉めれば、尻尾をが生えていれば振り切れんばかりに喜んだ。
そんな沙羅を愛おしそうに見つめるとお琴は言った。
「蓮はね、泥水を吸い上げながらも美しい花を咲かせるんだよ」

“花言葉は清らかな心”

「きっとお前さんを導いてくれる」
この先どんな苦難が訪れようとも、蓮の花のように生きて欲しい。
そんな願いを込めて、お琴は蓮の香りを手渡した。
浮かべた艶やかな笑顔は、強く美しく、愛に溢れていた。
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