第15章 夢だけで咲かないで / 徳川家康
『私、家康が好き』
(俺も、あんたのこと、好きだよ)
舞は目の前で微笑む。
触れようと手を伸ばすのに、何故か触れられない。
『家康、私を抱いて』
そう言って、帯を解き始める。
だんだん着物がはだけ、真っ白な素肌が現れてきた。
(俺も、あんたのこと、抱きたい)
たくし上げられた裾からは、白い太ももが伸び……
家康の渇きを倍増させる。
『家康、来て……っ』
切なく叫び、手を伸ばすので。
その手を取ろうと、家康も手を伸ばした。
(舞……っ)
「きゃ……っ」
小さな悲鳴が聞こえ、家康は目を覚ました。
何かを掴もうと伸ばされた手は、天井を向き。
顔を覗きこんでいた、その人の、頬を捕らえていた。
「舞……?」
その人の正体にやっとたどり着く。
舞は、顔を真っ赤にして家康を見下ろしていた。
「手、離して……」
「あ、ごめん」
慌てて、手を離す。
触れていた手がむず痒くて、つい頭をかいた。
(夢……?)
その内容を思い出して、つい赤面する。
なんて夢を見たのだろう。
照れ屋の舞が、あんな事言う訳もなく。
ちょっと勿体なかったと思う自分に、少し腹が立つ。
「家康、顔、赤いよ」
「な、なんでもない。 舞こそ、朝早くからどうしたの?」
「何言ってるの、もう昼餉の時間だよっ」
舞が、目を釣り上げた。
「今日から弓を習う約束だったでしょ? 家康が起きて来ないって、女中さんが言うから起こしに来たのに」
(そう言えば、そうだった)
今度、信長様の計らいで、演武会が開かれる事になり。
舞も弓を披露する事が決まっていた。
「すぐに着替えて行くから、外で待ってて」
「うん、解った」
襖を開けて舞を見送ると、家康は安堵のため息をつく。