学園は溺愛の箱庭(ONE PIECE長編学園パロ夢・番外編)
第2章 聖夜のシンデレラ(*)
年末の大掃除に向けて窓を拭いていた雑巾を干して、エプロンを外す
勢いよく立ち上がれば、簡単に身だしなみを整えた
「まずは、うん。学校に行こう」
思い出せないのなら、思い出すようにすればよかったのだ
大勢の人たちを思い出して、知り合いにばかり囲まれていても
どこか心の中に虚無感を感じていた
たった1人の顔を思い出せないだけで、世界はこんなにも霞んで色褪せてしまう
何故思い出せないのか、理由は分からないけれど
心にある温もりは、きっと…ローとの思い出
勢いよく家を飛び出し、学校への道のりをダッシュする
一分一秒でも、早く思い出したい。思い出せたのなら
『デートに、誘う!』
ほとんど記憶に残っていないローのことを想うたびに胸が熱くなる
驚いた顔なんて知らないけど、きっとその顔は自分の好きな表情
タイムリミットは、12時間―
***
「ローとのことを知りたいだァ?」
職員室だというのに、休み期間だからか堂々と二本の葉巻を嗜む担任のスモーカーが難しい顔をして首を傾げた
「まだ思い出せてねェのか」
「そう、ローさんだけ…」
贔屓目にセナを可愛がっているスモーカーは、恋心とも親心とも言えぬ複雑な感情にガシガシと頭をかいて天を仰ぐ
このまま思い出さず自分が守れるものなら、守ってやりたい
けれどきっと、セナはそれを望まないだろう
記憶があってもなくても、彼女はローに恋をしている
「ハァ…」
重苦しい溜め息を誤魔化すように、紫煙を吐き出すと目の前でしょんぼりと肩を落としている栗色の髪を乱雑に撫でつけた
「?!ちょ、スモーカー先生?」
「俺は生徒会顧問でもないし、詳しいことは分からねェが」
「うん…?」
「少なからず入学式の日から、お前はあいつを“ロー”と呼んでたな」
「!!…ロー」
確かにカレンダーにも、そう書いてあったはず
そうか、自分たちはお互いに名前で、呼び捨て合っていた…
「え、でも先輩なのに?」
「そこまで詳しい事情は知らん。が、お前麦わらとかユースタスとかも先輩なのに呼び捨てしてんだろーが」
「、確かに…」
友達は呼び捨てにして、恋人は呼び捨てにしない……という選択肢はあまりないかもしれない
「俺が知ってるのはそれくらいだな」
本当は2人の深い運命と絆を知っているが、大人げない意地悪心で言わないでおく
