第5章 ~一ノ瀬トキヤの場合~
プレゼントについて話し合う親子や、予定を相談し合うカップル、ケーキの宣伝をするお店の数々…。
街はもうすっかりクリスマスモード全開だ。
しかし、恋人どころか恋愛禁止という決まりがある学園に入っている私にとっては、一人の寂しさを感じてしまう辛い時期である。
恋愛禁止とは言っても、私にはひっそりと想いを寄せている人がいる。
クラスは違うけれど、とてもクールで、静かで、でも歌には強い思いが込められていて…。
そんな一ノ瀬トキヤさんのことが大好きだ。
本当は、こういうキラキラした街を大好きな一ノ瀬さんと歩けたら幸せなんだと思う。
しかし、私が一人寂しく街に来たのには理由がある。
それは、パートナーにクリスマスソングを作る参考になるものを見てきてほしいと言われたからだ。
もうすぐ行われるテストでは、クリスマスソングを作って歌うらしい。
これも夢を追いかけるためなのだろうが、叶わぬ恋をしている私が一人で、幸せそうなカップルや家族が大勢居る街を歩くのは、やっぱり辛いものだ。
「取り敢えず街の様子は分かったし、帰ろっかな…。」
かかとを返して駅へと向かうけれど、どんなに歩いても駅も電車も見えない。
「あれ…?間違えたかな…?」
さっきまで居た場所に戻ろうにも、道が分からない。
「この歳で迷子って…。」
よく考えたら、よく知らない街を適当に歩いて迷子にならない方が難しいかもしれない。
「もう…。カップルとか見てる場合じゃなかった…!」