第1章 朝焼けの声
戦帰りに温かな飯は有り難いものだ。
食欲をそそる香りに皆が嬉しそうに箸を進めている。
先程風呂に入っていた者達も、もう出て来たようだった。
熱い程のとん汁に、煮物とお浸し。
魚の身を解して混ぜた飯は最高の塩加減だった。
楽しそうに会話を弾ませながら、空のお椀を手に二杯目を取りに行く短刀達が駆けていっては一期一振に走るなと窘められる。
彼らの回りには明るい笑い声が絶えない。
私は一人、箸を進める。
しかし、味よりも先程の燭台切の問い掛けがグルグルと頭の中を巡っていた。
どう思うか、とは?
あの様子からして、決して燭台切はぬしさまの事を悪くは思っていないだろう。
寧ろ些か好意的にも感じられるその態度に驚いた。
しかし、問題はそこではないのだ。
問題は、私の方にある。
目の前の者がぬしさまへ僅かでも思いを向けている。
それが例え好意でなかったとしても、その事実が私に突き刺さった。
実際は燭台切がぬしさまへ食事を用意していただけのこと。
たったそれだけの事だというのに、私は…
「……ごめんね、そんなに変なことを言ったつもりは無かったんだけど…。」
いつの間にか隣に来ていたのか、突然の声に驚いて顔を上げた。
ごめんね、と繰り返す声の主は腰を下ろして自分の分の飯を置いた。
気が付けば大勢いた刀剣達はいつの間に皆食べ終えたのか、まばらになってきていた。
随分と長くこうしていたらしい。
まだ幾らか明るかった空は完全に夜が更け、虫の声が響く。
「別に、深い意味は無いんだ。…ただ、僕が知って欲しかっただけなんだと思う。何だか、皆を騙しているような気がしていてね。」
「何を馬鹿なことを。騙す等と誰が言うものか。」
気が付けば相手の言葉に被せるようにして話していた。
少し、言い方がキツくなってしまったかもしれない。
驚いた顔をされた。
「私は、きっと御主が羨ましかったのでしょう……。私は、ぬしさまの事を何も知らぬのです。私には何一つとして関わりなど無く、感情を寄せることすら出来はしない。だから、どんな形であれぬしさまと通じている御主が、羨ましかったので御座います。」
「……そうか、そういうことか。」
私と燭台切の間に、冷えた風の音が通る。
広間には二人きりとなっていた。