• テキストサイズ

白花曼珠沙華【刀剣乱舞】

第1章 朝焼けの声


鶴丸と別れ、他の者と共に出陣に向かう。

空は暗く、相も変わらず風が吹き荒れていて良くない気が漂っていた。
昨日と変わらず、三日月を隊長に敵の本陣へ進んでいく。

それから……どうしただろうか。

然程問題もなく進んでいき、雲行きが怪しくなってきた為に軽い休憩のみで本陣を攻めた。
暗くなってしまっては、短刀や脇差がいないこの部隊では圧倒的不利であったからだ。


そう、そこまでは記憶が残っている。

視界が霞む中、ヌルリとした感覚が額を流れた。

誰かの声がする。

三日月か、石切丸か…
確認しようと声を出そうとしたら、代わりにゴポッと音を立てて生温いモノが出た。
濃い鉄の味が口の中を流れていく。

騒がしさの中で私は一人どこか遠くにいるようだった。

胸元を酷くやられている。

あぁ、痛いのだろうな。
なんて己の事ながらに馬鹿なことを考えた。
痛みという感覚は、もはやよく分からなかった。

鼻を刺す鉄と土の臭い。
ヒュー、ヒューっと喉を鳴らして息をする己に、なんて情けないのだと腹立たしくなる。

負傷したこと自体が、初めてのことだった。

毛並みが汚れてしまったな、なんて頭の片隅で思っては揺れる世界に美しい青を見た。
それはそれは、美しく清んだ青であった。

瞬間、甦る記憶。

私は戦闘の途中で急に膝を付いた。
突然脚が動かなくなったのだ。

今朝の後遺症なのか、これはまずいと思ったが何よりも早く動いたのが三日月であった。
私に刀を振り下ろす敵を前に割って入ると見事に食い止め、葬った。
しかし、その瞬間横目で三日月を狙う太刀が視界に入る。
隊長である三日月がやられてしまっては部隊は危機的状況になりかねない。

気が付けば、無理矢理体を動かして、三日月を押し退け敵の刀を受け止めていた。

否、受け止めようとした。

刀さえ落とさなかったものの、力負けした私はそのまま敵の攻撃を喰らったのだ。

こうして未だに意識があるということは、きっと他の者が全て片付けてくれたのだろう。

額に落ちる水滴に、雨でも降ってきたかと思ったが、今の私にはよく分からない。

ただ、空は暗く、その中に映える青を見ていた。


あぁ、この青はきっと三日月だろうと認識したところで、私の意識は途絶えたのだ。
鶴丸の話をもっとよく聞いておくんだったな、なんて今更遅い話にどこか小さく笑いながら。
/ 42ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp