第11章 珈琲色
信濃の国のある村では…
二年に一度、山王さまに生贄を捧げる。
それは数えで十八までの生娘で、そして一番美しいおなごが選ばれる。
昔々、この村の長老がまだ幼子であった頃、この村は大飢饉に見舞われた。
村の守り神である山王さまが御座すお山に、村人総出で祈った所、猿の姿をした御使神が現れて食べ物を分けてくれたという。
その御礼と…そして二度とあのような飢饉が起こらないように、二年に一度こうやって生贄を捧げているのだ。
「聞き分けてくれ…な?和…」
長老が和の荒屋を尋ねて来たのは、村の者が寝静まった夕刻だった。
夜の闇に灯す燈明もない村だ。
暗くなってしまえば、皆が寝静まるのは早い。
和は真っ暗闇の中を尋ねてきた長老を労り、囲炉裏の種火を起こして薪をくべた。
「長老…それはいいんだけど…でも、俺、男だよ?」
「わかっとる…じゃが、今年はおなごがおらんのじゃ…」
事実、今年は候補になりそうなおなごはいなかった。
年が行き過ぎているか、若すぎるか…
中には生贄にならないよう、早めに嫁に出してしまう家もあって、なかなか最近では人選が難しかった。
ほとほと困った長老は、和の元へやってきた。
「わし以外、あの頃のことを知る者がおらんようになっては、こうなるのも致し方がないが…なんとかわしの生きているうちは、絶えさせてはならぬ…」
和は早くに二親を亡くし、村の者たちで養育してきた。
今では立派に一人で田畑を耕し、もうすぐ嫁の世話をしようかと皆で話し合っていたところであったが…
「俺は…いいよ?だって、俺で村の役に立てるなら、こんな名誉なことはないよ…」
「和…」
「だけど、娘でなくっていいのかな…」
「やってみんとわからん…」