第1章 まじない事件
これが呪詛であるならば、本丸の結界を、更には主の自室の強固な結界を潜り抜けたか、あるいは誰かが媒介となるものを持ち込んでしまったということになる。
御神刀や霊刀を呼ばなくては…いや、そもそもなぜ御神刀連中がこれに気付かなかったのか。呪詛返しの条件は?排除はできるか?でなければ封印はどうだ?そもそもなぜ主のような善良な方が呪われなくてはならない!
警戒したまま十分な距離を取り、抱き上げたままの主とともに部屋の外に出た、瞬間。これまでの緩やかな動きが嘘のように黒い物体が、液体のように状態を変化させ、主のお体へと吸い寄せられるように飛びついてきた。
主を横抱きにしたままの俺はとっさに背中を向けて主をかばう。が、黒い物体は俺の体をすり抜けて、主の中へと吸い込まれていく。
「主!!!」
「は、長谷部……今…私の中に…」
「すぐに石切丸のもとへお連れします!体調に変化はありますか!?」
得体の知れない物体に接触した影響か、あるいはショックからか、色を無くした顔色に焦燥が走る。
「わ、わからない…特に何もない…気もするし…」
「…急ぎます。そのまま掴まっていてください。」
この時間ならば石切丸は祈祷部屋だろう。好都合だと、一刻も早くと焦る気持ちのままに廊下の床を蹴った。