第44章 岩泉/キミに夢中!*イベント小説※キスのみ
春先に出会った男の人。
岩泉一
その名前を私は忘れない。
*
「ない…ない!!」
ガサガサと長い草をかき分ける。
手が草で切れて、血だらけに
なってしまっていた。
こんなにも必死に探しているのは、
私の宝物の、お守り。
アレは、引っ越した友達から
貰った手作りのお守りなのだ。
「ないよ…ないよぉ!」
泣きそうになる私に、ある男の人が
駆け寄ってきた。
「…どうした?」
「え…?」
*
「ほら、あったぞ」
「ありがとうございます!
ありがとうございます!!
ありがとうございます!!!」
何度も頭を下げた。何度も
お礼した。だけど足りない。
「よかった…あの…お名前
なんていうんですか?」
その人は、通学カバンを持つと
岩泉一 と言い残し 去って行った。
私はあの人の名前を一瞬たりとも
忘れたことは無かった。
*
そして、ようやく見つけた。
青葉城西高校に入って、
その人を見つけた。
1個うえの先輩。
「バレー部…なのか」
私はバレーの事は知らないから、
入っても意味は無いな、と
帰宅部にマルをつけた。
それでも気になって、少し
練習を見に行くことがある。
カッコイイ姿を見て、ますます
好きになってしまう。
(あの日から忘れられない…)
それでも遠くから見つめて
いなければならないって思っていた。
*
それは突然の出来事だった。
理解出来なかった。
理解しようが無かった。
「あん時の…女…だよな」
「は…はい 岩泉先輩」
帰り道に呼び止められた。
返答する私に先輩はふわりと
笑ってくれた。
「名前 覚えててくれたんだな!
お前の名前…なんだっけ?」
そう問われて、私は
「苗字名前」
と答えた。
岩泉さんと仲良くなれた。
それだけで本当に嬉しかった。
それから、岩泉さんの事が
ますますすきになっていった。
「岩泉さん…」
「ん?」
「岩泉さんは…好きな人いますか?」
「…まぁ…な」
ズキリと胸が痛くなった。
あぁ、失恋てこんな感じなんだな…。
涙が溢れそうな私に
信じがたい声が聞こえる。
「俺の隣に……」
「へ?」
「俺は…お前のことすき…」
赤くなる岩泉さんが、
恥ずかしそうに腕で顔を隠す。
「嘘でしょう?」
「ホント…!」
信じられなかった。