桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第11章 B
なるべく物音を立てないよう、箪笥の引き出し奥から、翔さんのお母さんから渡された封筒を取り出した。
中身を取り出し、通帳を開き、指で0の数を数える。
一、十、百、千、万…
そこには、俺が一生働いたって手にすることが出来ない様な金額が、数字になって記載されている。
もし最悪の場合は…
出来ることならこのお金に手を付けたくはないけど、もしも施設に…なんてことになれば、介護保険の資格を持たない翔さんには、きっと莫大な費用がかかるのは明白で…
ま、入所できる条件を満たしていれば、の話だけど…
通帳を閉じ、封筒に仕舞うと、箪笥の元あった場所に戻した。
翔さんを施設になんて預けたくない。
ましてや精神病院なんて…
翔さんと、ずっとこうやって暮らしていたい。
でも、それも叶わなくなる時が、必ず来る。
その時俺はどうする?
翔さんにとって、一番ベストな環境を、俺が作ってやることなんて、実際出来るんだろうか?
バイトだけで生計を立てている、この俺が…
考えれば考えるほど、不安になってくる。
「ん…、智…くん…?」
パイプベッドが軋んで、翔さんが”俺”を呼んだ。
「起きたの? じゃあ、今日は一緒にご飯作ろうか?」
そうだ…
俺にだって出来ることはまだある筈だ。
数日後、俺はある決断を胸に、バイトを休んである場所に向かっていた。
翔さんと一緒に…
「B」ー完ー